思うままに・・・

 このプログの題名は、文化勲章受賞者で哲学者の梅原猛氏のエッセイから拝借したものです。東京新聞中日新聞の月曜の夕刊に連載されております。それをまとめたエッセイ集も『世界と人間―思うままに』『自然と人生―思うままに』『癒しとルサンチマン―思うままに』『亀とムツゴロウ―思うままに』『シギと法然―思うままに』『宗教と道徳―思うままに』『戦争と仏教 思うままに』と計7冊出版されています。
 
 大学時代一番の収穫と言えば、この方に出会えたことだと確信しています。それほど両親や親戚、友達のような身近以外で影響を受けた人間はいないと、断言できます。だたの歴史ヲタから、広い世界に連れて行って、広い視野を持つきっかけを作って頂いた恩人の人でもあります。
 梅原氏を知るきっかけは、高校、大学と同じだった友人が、作家の井沢元彦氏のファンだった影響です。井沢氏の作家としてのデビューのきっかけになったのは、『猿丸幻視行』で江戸川乱歩賞を受賞したことです。これには梅原氏の著作『水底の歌』をヒントに書かれていた物です。また、井沢氏のライフワークになってる著作『逆説の日本史』にも色濃く、梅原氏の大きな影響を受けています。
 私はその『逆説の日本史』を通して知り(当時読売新聞の日曜に連載を抱えていたので名前だけは知っていましたが)、『隠された十字架』『神々の流竄』『水底の歌』いわゆる梅原古代前期三部作を読みました。その頃は、面白い視点で個性のある方だなという印象だけでした。しかし『海人と天皇』『聖徳太子』『日本冒険』と梅原古代後期三部作を読んだ時、学問としての精緻さと氏の魅力に魅了されるようになりました。その後、できる限り買える著作は軒並み買い漁り、それでも手に入らない著作は、大学の図書館、埼玉県立図書館、地元の川越市立図書館で借り漁り読み耽りました。

 梅原猛氏の魅力と言えば、とにかく広い分野で活躍する旺盛なバイタリティにあると思います。学問の分野では、専門の哲学の他に、仏教を筆頭に宗教学、歴史学、考古学、言語学、日本文学、世界文学、民俗学文化人類学、自然科学の分野まで・・・そのせいか一連の著作を梅原日本学を称されるほどになりました。果ては、市川猿之助氏にそそのかれスーバー歌舞伎の『ヤマトタケル』などの脚本、能の脚本、自ら小説を手がけるほどの精力ぶりです。外的な功績は、京都市立芸術大学移転問題の解決、国際日本文化研究センター日文研)の設立、ものづくり大学の設立など多数あります。
 
 また、梅原氏は大変逸話の多い方でも有名です。思想界の天皇と称された丸山眞男を一介の無名助教授だった頃に論文の反証で「貴方の頭こそが蛸壺でしょう」とのたまい、和辻哲郎を批判した後、縁あって彼が住んでいた家に住むようになっています。マルクス思想全盛時分、批判を繰り返しマルクス派の学者に「どうして批判を繰り返すのですか」と問われれば、「彼の顔が気にいらない」と言い周りを唖然とさせています。マルクス思想の批判の急先鋒だったのに、アメリカでは左翼の学者として間違えられ入国拒否の憂き目に・・・その後誤解は勿論解けました。
 脳死問題と臓器移植の諮問委員に、選ばれました。その当時厚生省の官僚に、「あなた方の思惑に乗りませんが、それでも良いのですか?」と確認してから、「脳死を『死』とは絶対認めない。臓器移植は菩薩行としてなら認める。」と頑として言い張り、諮問委員会の最終答申とは異例な全会一致の判断にならず、少数意見として「脳死を死とは認めない」という文言盛り込み発表されました。その後、官僚も懲りたのか諮問委員会にはお呼びは、かからないようです。
 文化功労賞受賞パーティーのスピーチで、「私はやりたい仕事を半分も終わらしていない」と話し、周りを驚かしたり、故竹下登元首相と会った時には、「貴方は、卑弥呼の生まれ変わりですか?」と言われたり、学生時代影響を受けた川端康成から突然会いたいと言われ、『地獄の思想』を愛読してると聞かされ驚かされました。帰り際に「仏界、入り易し、魔界、入り難し」。この言葉は一休というが、暇があったら、その真偽のほどを調べて欲しいと言われました。その後、彼の死後疎遠だった彼の著作を読んで「魔界」に入ろうとしていた人だったとまたまた驚かされたりしています。
 京都市立芸術大学移転問題の時には、皆しりごみして気付いたらい一匹狼だった梅原氏が先頭に立たされ解決にあたりました。日文研の設立の際には河合隼雄氏らは、本気で設立できるとは思ってなく梅原氏を唆し、彼自身は大真面目で設立に尽力したり、準備の際東京に単身赴任した時「東京の冬は寒いな」と思ったら夏から自室の窓が開きぱっなしだったとか。スーパー歌舞伎の際には、市川猿之助氏の社交辞令を大真面目に受け取り、本気で脚本の執筆にあたっていて、氏を驚かせ、その内容も素晴らしい物だったとかなどなど・・・
 
 実は子供時代の彼と私がそっくりでもあります。彼は複雑な家庭環境で孤独を感じ、他の子供とはあまり遊びませんでした。1人で野山をめぐり、家で自分の考案したゲームを作り遊んだり、空想を巡らす子供時代だったそうです。私も同じく彼ほどではありませんが、複雑な家庭環境で、他の友達とも頻繁に遊んでいました。ですが、非常に孤独感を抱いており、一人遊びの方を好みました。砂遊び、粘土遊び、ブロック遊び、1人で近所を冒険したり、自分で考案した遊びやゲームで興じ、空想を巡らすのが好きな子供でした。もしかしたら、そのような背景があった為、彼に惹かれたのかもしれません。
 しかし、社会の考え方では、彼とは隔離しています。彼は仏教を基準とした理想主義的な考え方で、物事を見ています。一方私は、物事の考え方を孫子の兵法を根本に、韓非子などの法家の性悪説を基準に考え、心の奥底で老子荘子の思想に魅力を感じる人間です。しかし、考え方を崩さず芯が強い彼には、尊敬しています。また、共通してる部分も多くあります。
 彼の著作のオススメは、まずは読みやすい『思うままに』『学問のすすめ』『地獄の思想』などから入ることが良いでしょう。それから『隠された十字架』等に入るのがベストだと思います。