「魂の医者」

 ユングの心理学は、様々な分野に多大な影響を与えてます。アニメやゲームとかにもパッと浮かんだだけで、エヴァ最果てのイマ、BALDR FORCE EXE、Remenber11などがあります。彼の心理学は遠大で深遠で私は日本で刊行してある著作を全部読みましたが、意味がわからない部分が多く、体系化されていなく個別論に終始してます。これは彼の性格もあるのですが、理由は後述します。彼の魅力はその文章力にあります。矛盾したことを書いて答えを書かなかったり、とんでもないことが書かれたりしますが、しばしば脱線したりします。ですが不思議と無意識に訴えてきます。それは薬でもあり毒でもある麻薬。何かに躓いた時読むと救いとなります。各論的な部分は非常に長くなるので彼の思想の根幹部分だけを書いていきます。
 彼の最大の業績は、「集合的無意識」の発見にあります。これは、個人を越えた民族、人類共通の無意識のことです。それを類型化したのが「元型」になります。シャドー、アニマ、アニムス、グレートマザー、トリックスター、ペルソナという言葉は、聞き覚えがある方も多いかと思います。その中で「グレートマザー」についてだけ述べましょう。母なるものと言われて何を連想しますか?優しく抱き慈しむそのようなことが連想することででしょう。そのようなことは、常識を取っ払っても払拭することが出来ない。これが「集合的無意識」というものです。物事には良い面もあれば、悪い面もあります。否定的な面として捉え呑み込むことが、代表的な例として上げられます。これは教育ママやステージママ、マザコンの子を持つ母親とかを想像すれば、理解しやすいかと思います。子供を過保護にし子の独立心を遮り成長を止めて、自分の手元に置こうとします。
 しばしば「集合的無意識」は、神話や伝説、昔話を基にします。肯定的な面は聖母マリアや観音様など、否定的な面では継母。魔女、山姥とかにされています。なぜ神話とかを重要視するかというと民族や人類が太古より受け続けたものであり、しばしば口伝であることが重要です。伝言ゲームを想像すればわかり易いと思いますが、仮に基になった出来事があったとします。それを代々語り続いている間、意図的もありますが無意識的に話を改変することがあります。それが続いたら基の出来事は跡形もなくなりますが、それを改変した大きな力があります。なのでしばしば、神話などが心理学の材料になっている理由です。
 彼の特徴的なこととして、「全体性の重視」「両義性の重視」があります。彼はタイプ論を書き人間の生来の特徴として、関心興味が外部の事象に行くのか?それとも自分の内界に行くか?と類型化しました。前者は外向的、後者は内向的になります。それはあくまでも指針であって完全な内向的な人間などはいらず、外向的な要素も持っている。勿論その比率は、しばしば人によって変わります。一方の性格が強い場合、無意識上では反対の未成熟な部分と現れます。極端な例を出せば誰とでも仲良く出来る人が、時に自己中心的なヒステリーに陥ったりします。逆に普段周りを気にしない人が周りを極端に気にして神経衰弱になったりします。
 このように心の中には合い矛盾した性質を、併せ持ちそれが当たり前で、無意識的な行動が出る時が逆に人間形成を高めるチャンスとしています。師匠にあたるフロイトは、無意識を矯正すべきものとして排除しようとする意図が見えます。逆にユング自体が二面性的な性格を幼少の頃から意識していたり、彼の母が普段は温和な人が神懸りがおこったように豹変したりすることが無関係ではありません。(母親が霊能者の家系だったことも起因していると思われます)キリスト教では、父、聖霊、子の三位一体を説きますが、彼は悪魔を入れて四位一体としてます。悪魔もキリスト教の重要な要素と考えていたようです。
 次に分析(カウセリング)についてですが、分析家に教育分析を義務付けたのが特徴でしょう。要するに自分を知らないで他人なんかわかる筈がない。また「転移現象」による弊害の防止の意味もあります。「転移現象」について書けば本になるほどの分量になるので割愛します。(実際「転移の心理学」という本を書いてます)ごく簡単に言えば分析家がクライアントに必要以上に感情移入したり、逆にクライアントが分析家に対し特別な感情を持つことです。それとクライアントの内的事実を重視します。例えばクライアントが父親を悪い人物と語っていますが、実際は普通の良い父親です。分析家はクライアントの訴えを否定せずになぜそのようなことに至ったか観察し、それの裏に潜む何かを探し当てる作業をします。教育分析は他の派でも受け入れられカウンセラーになる為には、自分が受けなければいけない仕組みになっています。
 最後にユングは自身のことを「経験主義者」といい「分析家は何でもしても良い。ただし夢を理解しようとするな」と言います。夢分析ユング心理学の中核を為すものですが、夢を1つ1つ分析するのは無意味だと考えです。それは夢は不可解なもので理解は不能であり、むしろ夢の数々の推移を大きな流れで見て夢をおぼろげながら理解する。そうでないと夢の解釈などは人それぞれで変わって行くものですから・・・経験主義と言った背景には、その他にクライアント個別ごとに個性や背負った背景が違う。ある体系化した手法やある方法が他のに通用したからといって、それが通用するとは限らないその人に最適な方法を見つけるべきである。ただ、分析家独自の見識や方法を編み出すべきである。ただそれはあくまでも指針であってそれに頼ってはならない。何をしても良いという考えも分析家がユングの心理学に囚われるのを嫌い、分析家は柔軟に独自の方針や手法を作ることを願っていた。ですので体系化した書物の刊行を渋り、独自の教育機関を作るのも渋りました。
 かなり駆け足になりましたが、かなり広大で深遠な世界に少しでも触れれば幸いです。ユング心理学は、実際に分析を埋めないとわかりずらい物ですが、幸が不幸かユングに比較的近い人間なので書物だけでかなり理解したつもりです。でもまだまだ解らないことだらけですね。